生まれも育ちも奈良県で、今は橿原市に住んでいるみくるです。
国のまほろば大和盆地の東南に位置する三輪山を御神体とする大神神社を、幼い頃より「みわさん」と呼び習わし、折に触れてお詣りして来ました。

奈良県桜井市に鎮座する大神神社は、本殿は設けず拝殿の奥にある三つ鳥居を通してお山を拝するという、原初の神祀りの様が伝えられている、わが国最古の神社です。
そんな大神神社には、多くの摂社・末社があります。

今回は、その中から大神神社 摂社の狭井神社をご紹介します。
大神神社の境内に鎮座する、三輪の神様の荒魂をお祀りする神社さまです。力強いご神威から、病気平癒の神様として篤く信仰されています。
4月18日の鎮花祭は上古からの由緒をもち、「薬まつり」の名前でも知られます。
大神神社摂社 狭井神社(さいじんじゃ)
狭井神社の概要と御祭神
奈良県桜井市に鎮座する大神神社の摂社である 狭井神社(さいじんじゃ) は、神聖な三輪山の麓に位置し、「病気平癒」・「薬の神様」として古来から深く信仰されています。
正式名は 狭井坐大神荒魂神社。その創祀は垂仁天皇の時代に遡り、延喜式神名帳にも記載される由緒ある古社です。

主祭神は狭井坐大神荒魂神(さいにいますおおみわのあらみたまのかみ)。大神神社で祀られている大物主神(おおものぬしのおおかみ)の「荒魂(あらみたま)」です。
荒魂とは、神様の能動的で活発な力を指し、災事などにも顕著に働くと言われています。これに対し、大神神社では大物主神の「和魂(にぎみたま)」が祀られています。
この荒魂の強い神威から、病気平癒の神様として特に信仰を集めており、製薬関係者からの信仰も篤いことで知られています。

他に、大物主神(おおものぬしのかみ)、媛蹈韛五十鈴姫命(ひめたたらいすずひめのみこと)、勢夜多々良姫命(せやたたらひめのみこと)、事代主神(ことしろぬしのかみ)が配祀されています。

こちらの記事では、桜井市三輪を流れる「狭井川」と、神武天皇とその皇后・伊須気余理比売命の出会いの物語をご紹介しています。
伊須気余理比売命は、狭井神社でお祀りされている勢夜多々良姫命の娘です。
薬井戸と御神水
社名の「狭井」は「神聖な井戸・泉・水源」を意味するとされ、その名の通り、拝殿の左手奥には「薬井戸」があります。

ここから湧き出る水は「狭井の御神水」「くすり水」と呼ばれ、万病に効くと伝えられており、多くの参拝者がこの水を求めて訪れられます。

ボタンを押すと水が出るようになっています。

三輪山そのものが御神体であるため、そこから湧き出る水は特別なものとされています。

狭井神社の霊泉
この霊泉は神体山・三輪山から滾々と湧き出た御霊水で、清澄且つ一種の風味を称え、遠近より拝受に来る者、四時絶える事がありません。
酒造家は醸酒、製薬業者は製剤に、更には書画に精進する方はその用水に、いずれも広大な霊徳を頌して、当狭井神社の御神威とともに天下に伝承せられています。
狭井神社の薬井戸の説明板
紙コップを設置して下さっていて、その場で御神水を頂けるようになっています。持ち帰ることもでき、健康祈願に訪れる方に人気です。

ペットボトルや容器を持参して汲むのが一般的ですが、社務所でも御神水を詰めたペットボトルの販売が行われています(500ml:100円、 2リットル:300円)。
※御神水は三輪山から湧き出る霊水ですので、節度を守って持ち帰り下さい。
三輪山登拝口
三輪山登拝(みわやまとうはい)は、狭井神社を通じて行われる三輪山への特別な参拝です。
三輪山は、大神神社のご神体そのものとれ、古代から信仰の対象とされてきました。そのため、一般的な登山とは異なり、「神域への登拝」という特別な形式が取られています。
狭井神社の境内にあるのが、唯一の三輪山登拝口です。

山全体が神域であり、山中の一木一草、土石類に至るまで、全てが神聖なものとして大切にされています。

三輪山の標高は467m、登山道は往復約2.2kmで、所要時間は約1~2時間です(個人差あり)。
狭井神社の社務所で受付を行い、入山初穂料300円を納めます。受付時間は、午前9時から正午(12時)までです。
三輪山登拝について詳しくは、大神神社の公式サイトよりご確認下さい。
鎮花祭(はなしずめのまつり)
鎮花祭(はなしずめのまつり)は、奈良県桜井市にある大神神社とその摂社である狭井神社で、毎年4月18日に斎行される由緒ある祭事です。
鎮花祭は、この疫病を引き起こす疫神(疫病神)を鎮め、国家や国民の健康と無病息災を祈願するために行われてきました。
第10代崇神天皇の御代に疫病が大流行した際、狭井神社に大物主大神の荒御魂を祀って疫病を鎮めたのが鎮花祭の由来ともされています。
【鎮花祭(薬まつり)】
— 三輪明神 大神神社 (@oomiwajinja) April 18, 2025
4月18日午前10時半より「鎮花祭」を斎行いたしました。
春、花の飛散するのに伴って疫病が起こると考えられたため、これを鎮めるために行われる、「大宝令」(701年)に規定された国家的祭祀です。#大神神社 #鎮花祭 #華鎮 #薬まつり #百合根 #忍冬 #特殊神饌 pic.twitter.com/a5l0ISOujZ
鎮花祭の祭典では、特殊な神饌(しんせん:神に供える酒食)として、薬草である百合根と忍冬(にんどう/スイカズラ)が供えられます。これらの薬草は古くから薬効があるとされてきたもので、このことから鎮花祭は別名「薬まつり」とも呼ばれています。
三島由紀夫記念碑「清明」とささゆり
狭井神社参道に建つ記念碑「清明」の文字は、三島由紀夫が色紙に書いたものを写したものです。

記念碑のかたわらにも、ささゆりが咲いていました。

三島由紀夫の『豊穣の海』第二巻「春馬」には、三輪山信仰と大神神社の神事と、作品の主題との深い係わりについて書かれています。

三島氏は、古道研究のため、昭和41年6月に率川神社の「三枝祭」に参列し、8月には三輪山頂上に登拝し、色紙に「清明」と認め、後日、次の感懐を寄せられました。
大神神社の神域は、ただ清明の一言に尽き、神のおん懐に抱かれて過ごした日夜は終生忘れえぬ思ひ出であります。
記念碑は、三島由紀夫と大神様の御神縁を鑑み、平成16年に奉納されました。
2025年は、三島由紀夫の生誕100年にあたることから、大神神社の公式Xには、ささゆり園の開花状況と共に「清明」の記念碑と生誕100年を関連付けての発信がありました。
【三島由紀夫生誕100年とささゆり】
— 三輪明神 大神神社 (@oomiwajinja) June 5, 2025
1枚目の写真は、狭井神社参道の記念碑「清明」前のささゆりの様子です。この「清明」の文字は、三島由紀夫さんが色紙に書いたものを写したものです。
「ささゆり園」でも、笹百合の多くが開花をはじめ、見頃へ向かっています。#ささゆり #三島由紀夫 #豊饒の海 pic.twitter.com/nYVCrCxATs
「清明」の記念碑は、狭井神社の鳥居を潜った先にある池の前に建っています。

記念碑の手前にも一輪咲いていました。

こちらの記事では、大神神社でご神花として大切にされている「ささゆり」と「大神神社ささゆり園」についてご紹介しています。
くすり道と鎮花祭
くすり道は、奈良県桜井市にある大神神社から、その摂社である狭井神社へと続く参道で、薬業関係者奉納の薬木・薬草が植えられています。

くすり道の入口は、大神神社の祈祷殿の左手にあります。

くすり道は、平成の大造営の際に新しく設けられました。

薬の神様・狭井神社に続くことから、大阪薬業三輪会の皆様方が中心となり、薬木を植え、献燈を捧げ「くすり道」として整備し、ご尽力下さいました。

その御功績を伝える「くすり道 竣成誌」の傍らには、洗眼や肝臓疾患に用いられる「メグスリノキ」が植栽されています。

このように、道の両脇に植えられた数十種類の薬草(ドクダミ、ゲンノショウコ、キキョウなど)には、説明板が設置されていて、どのような効能があるのかを知ることができます。

これらは、製薬会社や薬業関係者からの奉納によって植えられたものです。

鎮花祭で供えられる百合根や忍冬といった薬草は、まさに「くすり道」に植えられている植物とも関連していて、その精神を体現する道となっています。

狭井神社へのアクセス
奈良県桜井市三輪1422
JR三輪駅から徒歩約5分、または桜井駅から徒歩約20分。
大神神社の駐車場(無料)がご利用できます。
こちらの記事では、大神神社 末社の「貴船神社」についてご紹介しています。
狭井神社の鳥居横から、山の辺の道へ進み徒歩4分ほどで着きます。

最後までお読み頂きありがとうございます。